相手の気持ちを推し量り
自らの心をコントロールする
小谷実由さんが語る
除いたことで、生まれる余白
vol.12 前編
小谷実由 / モデル
愛称は“おみゆ”。14歳からモデル活動を始め、ファッション誌やカタログ・広告、アーティストのMVなどで活躍。無類の本好きであり、音楽・インテリアなどのレトロなカルチャーを愛することから、それらを一度に味わえる純喫茶店の魅力に気づく。モデル業の傍ら、趣味などにまつわるエッセイの執筆も多数行い、多方面の業界から文章力の高さを評価されている。2022年7月には、20代終わりから30代のはじまりにかけて綴った、日々のあれこれや、心のつぶやきをまとめた初のエッセイ集「隙間時間」(ループ舎)を刊行し、好評を得る。日常の気づきや好きなものを多くの人に伝えたい、誰かの日々の小さなきっかけになってほしい、とさまざまな作家やクリエイター、アパレルブランドと取り組む企画の数々も注目され、表現者としてのフィールドワークを広げている。愛猫家であり、相棒“しらす”との共同生活もファンの関心を集める。
小谷実由さんのInstagramはこちら
相手の気持ちを推し量り
自らの心をコントロールする
モデル / 小谷実由さん
心地よい暮らしや生き方を叶える方法は、人の数だけ答えがあるから
“私が、私にとってのベスト”を探し出すヒントをシェアするために、
美しく生きる人々のイデオロギーをインタビュー。
今回はモデルとしてだけでなく、
文筆家としても才能を開花させる小谷実由さんに
「除いて、与える」をテーマに、やめたことで好転したことについてお話を伺います。
責任感と意思の強さから来る“これが普通”という固定概念は、
モデルとしての小谷実由さんを成長させながらも、
自分を苦しめることもあったという過去について話してくれました。
「私にとっての当たり前は、あの人にとってはどうだろう?」
一歩引いて物事を俯瞰したとき、小谷実由さんに起こった変化とは。
“服が好き”な気持ちを貫き通して ファッションモデルに
「私って、つい熱くなってしまう性格なんですよ」
自然体で、柔らかい物腰の小谷実由さんが、自分についてそう語るのは思いがけないことでした。
「小さな頃からファッションが好きで、小学校高学年の頃からファッション誌を読みながら“あれも着たい、これも着たい”と考えていたんです。モデルになったらいっぱい服を着られるのかな?と思ったのと、身長が高いことが唯一自分の誇れることでもあったので、自分の意思でオーディションを受けて、14歳で事務所に入ることに。ですが、10代の頃はなかなかファッション誌の仕事に恵まれなくて。大学を卒業する頃、みんなが就職を決めていくなか、私はこのままでいいのかな?と、これからのことについて真剣に考えました」
自分ではもともと、顔つきやスタイルを“モデルらしいモデル”だと思っていなかったという小谷実由さん。当時、しっとりとした小谷実由さんの空気感は演技の分野で評価されることが多く、夢であった“ファッションモデル”の夢を叶えるため、シフトチェンジの必要を感じたのだそう。
「時間は有限だから、チャンスは逃しちゃいけないと思って事務所も移籍しました。演技のお仕事ももちろん楽しいけれど、経験を積んだ分野よりも、未開拓のファッション誌にチャレンジしたのは、私が負けず嫌いで、2つ選択肢があったらきつい方を選んでしまうような性格だからということもありました。徐々に憧れだったファッション誌にも出られるようになり、インスタを始めたのもそのタイミング。今でこそモデルがパーソナルな表現をすることが浸透してきているけれど、そのときはまだ珍しいことだったかもしれません。大好きな喫茶店に行ったときの様子などをアップしていくうちに、喫茶店に関するインタビューのオファーがあったり、自分の好きなものについて自分の言葉で語る機会をいただけるようになったんです」
やりたいことと向き合って自ら飛び込んだファッションモデルへの道。さらには、カルチャーについて発信する表現者としての機会も、導かれるように増えていったそう。そこへ到達したのは “負けず嫌いで熱い” 小谷実由さんの堅い意思があってこそのことでした。
自分が思う“普通”に悩まされた20代後半
仕事に対してストイックな姿勢は、モデルとしても、カルチャーを愛する表現者としても小谷実由さんの名前を広げる一助になりましたが、同時に、自分の定義である“普通のこと”ができていない相手に対して怒りっぽくなってしまったり、やるべきことに固執する性格に嫌気が差してしまうことも。
「下町育ちの江戸っ子なので、筋が通っていないことが苦手な部分があるんです。例えば、仕事のメールがきたら即レスポンスするというのが私の中の“普通”であり、仕事への向き合い方。忙しくなってそれができなくなると、イライラしてしまうことがありました」
モデルという職業柄、日々たくさんの人と関わり合う中でも、真面目すぎる性格がアダとなってしまう出来事もあったそう。
「“なんでこんな言い方をするんだろう?”となってシャットアウトしてしまったり、顔に感情が出やすいところもあって、昔は苦手な人とあまりうまく話せないというところがありました。仕事などでいただくメールの文面の言葉尻にも、すぐに違和感を感じてしまったりして。そういうときって、相手ではなく自分にがっかりしてしまいます。30代に入る前の数年は、気分の浮き沈みが激しくなっているのを感じていて、30歳の節目を迎える前に、自分の考えている筋から外れたことが起きるとカッとなるクセを直さなくちゃと、一旦、落ち着いて考えてみるべきだと思ったんです」
“普通”は人それぞれが持っている
初めて会う人のことを、つい第一印象で判断してしまうことは誰にでもよくあること。よく知らない相手だからこそ、警戒してしまうのも無理はありませんが、相手をよく知ろうとする姿勢を持つことは、当たり前のようでとても重要なことだと小谷実由さんは話します。
「もしかしたら波長が合わないかもな、と思ったとしても、そこで止まっていたら前に進めません。話していく流れの中でその人のよいところを探そうという意識を持つようにしました。いろんなタイプの人がいるから、やっぱり違うとなったらそれはそれでいいと思うんです。もう少し心を開いて相手と向き合った結果、最初は気がつかなかった魅力を見つけられたら、お互いにとってとてもいいことですよね」
テンションがつかみにくいメールでのやりとりでも、自分の“普通”を相手に当てはめてあれこれ悩むことは少なくなりました。
「冷静に考えたら、言葉って、話し方で温度感が変わってくるものだということに気がつくことができました。メールの文面だけだと相手の気持ちが読めないものです。自分が直感で感じたことだけでなく、ひとつでもふたつでも“相手はこう考えているんじゃないか”というパターンを考えるようにしたら、心が静まるように。相手から投げかけられた言葉で傷つくことはあると思うけれど、そういった感情を長引かせずにいられる術を身につけられた気がします」
無条件に元気になれる
カルチャーに触れる時間と友人と話す時間
自分にとっての“普通”の概念を除き、相手の視点に立って考えることで、心が軽くなったという小谷実由さん。とはいえ、100%プラス思考に切り替えて考えることは難しいから、たまには上手くいかなくて落ち込むこともあるそう。
「ムダにイライラしてしまったことを反省して解決策を立てたとしても、やっぱり気持ちが晴れない……というときは、読書をしたり、映画や音楽など大好きなカルチャーに触れて気持ちを上向きにしています。夢中になれる好きなものって、色んな場面で自分を励ましてくれるものだから、何か打ち込めるものがあると心のメンテナンスをしやすいのではないでしょうか」
“やってみたいな”と思っても考えるだけでやらずに終わることって案外多い、と小谷実由さん。
「できればその気持ちを外に出して友人に話してみるだけでも“今度一緒にやってみようよ”となるかも。一歩踏み出せば違う景色が見えてくるはず」
友人たちとのコミュニケーションも、小谷実由さんの“普通”のロックを外してくれます。
「とても憧れている年上の女性の友人がいるのですが、何か嫌なことがあって彼女に相談すると、決してネガティブな結論に結びつけないんですよね。仲が良い人と話すときって、つい同調して欲しくなってしまうけど、彼女がフォローを入れてくれるから、嫌な出来事として終わらせずに今一度相手の気持ちを考えるきっかけになるんです。そうやって、自分にとっての当たり前を除いて得られたものは柔軟性。たくさんの人と出会えるモデルという仕事に感謝しながら、関わる相手のいいところも、反面教師だと思う部分も、学びにしていきたいと思うんです」
後編は、忙しく働く小谷実由さんなりの「休み方」について、大好きな仕事を純粋に楽しみながら、よい作品づくりをするための秘訣を伺います。
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Staff
Photographer : Go Kakizaki
Writer:Ai Watanabe
Editor : Ayano Homma ,Marika Tamura (Roaster)
Director : Sayaka Maeda (FLAP,inc.)
Assistant Director : Sara Fujioka (FLAP,inc.)
日々の暮らしを少しだけ豊かにするヒントについて、素敵な方たちに語っていただきました。